しがらみのほどき方

1.日本企業に巣食うしがらみ

「業界に存在する非効率な商習慣」「義理人情のからんだ取引先」これらの’しがらみ’から解放されれば近代的な経営を実現できると分かってはいても、簡単に実行出来ないのが現実のようです。

私にも‘小さなしがらみ’の一つや二つは思い当たります。生命保険の加入、健康食品や化粧品の購入、雇用・・・多少の損は覚悟の上の「おつきあい」という認識です。程度の差こそあれ、そんな経験は誰にもあることでしょう。その理由は義理人情を重んじる国民性のせいでしょうか?’しがらみ’を重視するプラスの面は確かに存在しますが、そのしがらみに捕らわれて不利益を被る。そんな現実があるのも事実です。

ただ、取引先との付き合い、業界団体との調和、社内の血縁者の処遇・・・等々のしがらみでがんじがらめの中小企業であっても、トップの覚悟と相応のテクニックがあればそこから解放されることは可能なようです。

2.しがらみの実態

しがらみの種類は次の三つです

  • カネに関するしがらみ
  • モノに関するしがらみ
  • ヒトに関するしがらみ

[1] カネに関するしがらみ

業績不振の経営者仲間から連帯保証人を頼まれ、仕方なく判を押した結果、当事者が破産し、多額の債務を抱えてしまう・・・ 他人の話なら「そんなことを引き受けるのが軽率だ」と批判できるところですが、‘しがらみ’のせいで断り切れず起こってしまう不運です。

[2] モノに関するしがらみ

他に良い条件で取り引きできる相手があるものの、長年の付き合いや血縁関係という‘しがらみ’のせいで外注先を変えられず、いつまでたっても悪条件の取引から抜け出せません。

[3] ヒトに関するしがらみ

古参幹部や社内の血縁者であるという理由で能力の劣る人材を採用したり一定の役職を与えたりという不当人事。義理人情にまつわる‘しがらみ’が招く結果です。

3.’しがらみ’に縛られる経営者

整理して考えると、私たちは実に様々な‘しがらみ’に縛られていますが、そんなものに捕らわれなければより効率的な事業運営が出来ることは誰でも知っています。

思い切って‘しがらみ’を断ち切った場合、どのような結果が待ち受けているのでしょうか?確かに当事者同士の関係は気まずくなるかも知れませんが、少なくともそれが原因で会社が傾くことはないというのが現実のようです。言い換えれば、大半のしがらみは断ち切ることができるのです。

しかし多くの経営者が’しがらみ’を抱え込んでしまうのは何故でしょう?それは‘しがらみ’を絶つ事に対し自分自身がブレ-キをかけているからです。こうした’しがらみに弱い人間’は次のタイプに分類されます。

[1] 周囲の反応を過剰に気にする経営者

常に周囲の目を気にするので、人間関係に影響を及ぼしかねないドラスチックな判断が出来ません。‘しがらみ’を断ち切った後の悪い結果を勝手に想像し萎縮するタイプ。 親から家業を継いだ二代目、三代目経営者に時折見られます。

[2] 極端に世話好きな経営者 

豪放磊落で威勢はいいが、何もかも抱え込んで身動きが出来なくなってしまいます。そもそも‘しがらみ’を断ち切るなどという発想自体うかびません。義務感や使命感に裏打ちされた信念を持っていて、それは「メシア願望」とも取れる優越感と言えます。 斜陽産業の業界団体の守旧派幹部などに多いタイプ。

[3] 完璧主義・ナルシスト型の経営者

何事も思い通りになると思い込み、自分の力を過大評価していて危機感がないために新しい改革に取り組みません。このため、結果的に‘しがらみ’を放置し続けることになります。 高度経済成長期に成功体験を持つベテラン経営者に見受けられるタイプ。

4.’しがらみ’から解放されるには

‘しがらみ’にがんじがらめになった企業は、閉塞感にとらわれているのが現状ではないでしょうか。社内の活気も滞りがちでしょう。

経営者トップが強い覚悟とそれなりのテクニックを持てば‘しがらみ’から逃れる道は存在するはずです。先ずは自分の行動パタ-ンを自覚し、‘しがらみ’に対してより冷静に向き合うことが出来るというアドバイスもあります。無意識のうちに陥っている「思考停止状態」を解き、自分が直面している’しがらみ’は本当に断ち切れないものか分析すること・・・それが‘しがらみ’をほどくための第一歩と言えそうです。

 

-参考記事「日経 ベンチャ-」2004.7号-