「聞く能力」と「話す能力」 有効なコミュニケーション成立のために

 「頭がいい人、悪い人の話し方 樋口裕一 PHP新書」が売れているそうです。何気ない会話にその人の知性が現れる。その印象から、仕事の能力の優劣まで判断されてしまう。そんな視点から、愚かな話し方の実例が紹介されていますが、私にもいくつか思い当たるところがあり、反省しきりでした。

 では、反対に「聞く」能力に問題はないのでしょうか?「同じ職場にいるのに話が通じない」コミュニケ-ション能力の開発を手がける’話し方研究所(東京・文京)’にこんな相談が多く寄せられているそうです。


1.聞く能力の低下を象徴する実例をいくつか紹介すると・・・

 A. 職場での上司と部下の会話
  • 上司「この見積書を仕上げてくれ」
  • 部下「はい」

しかし、いつまでたっても部下は見積書を持ってこない。 原因は、(1)お互いが考えている締切日が違う (2)さらに、いつまでも聞き返さない。つまり、対話能力低下による意思疎通不足により発生したトラブルです。

 B. 通信販売や旅行代理店などの顧客対応を代行するコ-ルセンタ-で

若いオペレ-タ-は、マニュアル通りの対応は出来るけれど、かかってくる電話の内容はマニュアル通りとは限らない。想定していないことを言われると言葉につまってしまう。ここで必要なのは、相手の言い分をじっくりと聞く根気と柔軟性。 かくして、オペレ-タ-の年齢構成は自然と40歳以上の女性ばかりに。

 C. 「話す達人」のイメ-ジがあるコンサルタントも・・・

相手を論理的に打ち負かすのが仕事と思いコンサルティング会社に就職してくる人が多い。しかし、コンサルティングの仕事で重要なのは「聞く能力」。コンサルティングの仕事の本質は、相手が上手く説明できないことを引き出したり、明確にすること。そのためには「よく聞き、相手の考えが整理されるような質問を投げかける必要がある」

2.「聞く能力」低下のシグナル・・・’話し方研究所’の研修で用いるチェックリスト

 

1. 早合点、早とちりで話を聞き違える
2. 話を聞いていると、眠くなったり頭がぼんやりしてくる
3. 話している相手が嫌いな人の場合、心を閉ざしてしまう
4. 相手の話し方が下手なために、聞こうとしなかったことがある
5. 自分の話すことを考えていて、相手の話が聞けなかったことがある
6. 自分が先に話したくて、相手の話を遮ることがある
7. 話に興味がなくて、聞く気になれなかったことがある
8. 自分とは考えが違うと判断すると、頑として聞かなくなることがある
9. 人の話を聞くとき、腕組みをしたり、無表情だったりすることがある
10. 話の内容に不明な個所があっても、質問・確認をしなかったことがある

 

私自身の経験では、上記の全てにつき、身に覚えがあります。このようにチェックポイントを確認すると、「聞く」事は、受け身の消極的行為ではなく、自分が進歩するための能動的な行為と捉える事が出来るようです。

先日テレビ番組で、出川哲朗が「僕がト-ク番組に出演するときには、どこかに自分が絡んでいくきっかけがないかと人の話を必死で聞いています。人の話を聞かない人は信じられない。チャンスがいっぱい転がっているのに・・・」と話していました。「抱かれたくない男」の称号を持つ、いじられ役の彼ですが、重宝がられる存在であるために、こんな努力を重ねていたのですね。ちょこっとだけファンになりました。

3.「聞く能力」低下の背景

主に若者を中心として「聞く能力」が低下してきた背景には、 (1) 電子メールなど相手の顔を見ない伝達手段が増えた事 (2) 学校教育がスピ-チなど話す能力の伸長に偏り、聞くことを軽視した影響 があるという意見がありますが、原因はそればかりとも言い切れないようです。

上司のコミュニケ-ション能力を再点検すべきとの指摘もあります。こと社内の意思疎通に関しては、若い社員の能力低下を嘆くばかりでは解決しないとの意見です。確かに、先にご紹介した「頭がいい人、悪い人の話し方」にも『あなたの周りのバカ上司・・・部下から相手にされない話し方』の章が設けられています。

4.『あなたの周りのバカ上司・・・部下から相手にされない話し方』

 1.道徳的説教ばかり

「努力」「真心」「思いやり」で物事を解決しようとするが、物事は道徳の次元で動いてない。新製品開発の遅れは根性不足のせいでもない。価値観の多様性を理解できず、愚か。

 2.他人の権威を笠に着る

地位のある他人の意見を、自分の意見の代わりにする。知人の学歴や職歴を誇示して、自分の格を上げようとする。人を経歴や地位のみで評価することを意味し、不愉快であり、愚か。

 3.自分を権威づけようとする

手を尽くして自分の学歴、人脈をひけらかす。居丈高に怒鳴ってひるませて(鈴木宗男的手法)、その後なだめて、おだてて慕わせる。権威は自分で作るのではなく、人が認めるもの。知性の底が知れて、愚か。

 4.自分の価値観だけですべてを判断する

自分の価値観のみで判断し、他の価値観を認めない。狭い価値観に捉われるのは知的な態度とは言えない。

 5.根拠を言わずに決めつける

「理由は自分で考えろ」「とやかく考える必要はない。とにかく悪い」が得意のフレ-ズ。根拠を示さないばかりか、考えようともせず決め付ける。

 6.ケチばかりつける

批判ばかりで建設的な意見がない。とにかく他人のあら探しばかり。批判によって計画を妨げるばかりでプラスに進むことに貢献していない。部下を育てないことでも愚か。

 7.少ない情報で決めつける

何もわからず、証拠もないのに決めつける。コメンテ-タ-にも多いタイプ。色々な可能性を考えず、軽率に決めつけると取り返しのつかない失敗も。

 8.具体例を言わず、抽象的な難しい言葉を使う

表現が抽象的で、話しを聞けば聞くほど、説明を求めれば求めるほど、ますます話しがわからなくなるタイプ。自分本位の、または聞きかじっただけでよく意味も理解出来ていない言葉を使い、知的だと思い込んでいるのが愚か。

 9.詭弁を用いて自説にこだわる

自分を賢いと思い、他人を批判する。「水掛け論」に持ち込むのが得意で、それまでの意見をすり替える。自分が明らかに間違っていても、自分の責任を認めず詭弁を弄して逃れようとする。

 10.矛盾に気づかない

例を挙げて話しているうち、何の例を挙げているのか忘れてしまい、例に引きずられて別の話になる。他人の意見に配慮するうち、自分の主張がわからなくなる。いま口にしていることに夢中で、全体の論理を忘れる。頭の回転が速くないのにその場で処理しようとするのが原因。

 11.難解なことを言って煙に巻く

評判のビジネス書をすぐに買って読もうとするのは良い事。ただ、ろくに理解していないのに難解なカタカナことばや専門用語を使いたがる。賢く見えるどころか逆効果。本当に理解できていれば難しい用語を使わなくても平易なことばで説明できるはず。

 12.知ったかぶりをする

多いのは、「半可通」の「知ったかぶり」大した知識もないくせに、知識をひけらかそうとする。次に「裏事情通」の「知ったかぶり」自分の想像を交えた裏事情の推測。いずれも滑稽であること甚だしい。

 

5.コミュニケーション能力の開発のために

コミュニケーションとは、相互通行。情報を発信する側の「話す能力」と受信する側の「聞く能力」が相互にかみ合ってこそ、初めて成立します。そして、有効なコミュニケーション成立のためには、それぞれの立場でのスキルを磨く必要があります。 話す立場、聞く立場、いずれにおいても常に意識的により優れた話し手となろう、より優れた聞き手となろうと心がけ、訓練を重ねることにより、質の良いコミュニケ-ション能力を開発することが出来るようです。