松下幸之助が教える『マネジメント・リーダーらしい一言』

 できる経営者、マネージャーの言葉には不思議な説得力があると言います。それは、その場しのぎの判断ではなく、あらゆる発言に責任者としての哲学なり、信念が宿っているからでしょう。数々の功績を残した松下幸之助も同様で、言われた人が”はっ”とし、大きな気付きを得る言葉を多く残しています。

 今回は、『松下幸之助の見方・考え方』(PHP研究所)から、松下幸之助が残した言葉及びその発言が示唆するマネジメント・リーダーが守るべき鉄則、をご紹介します


松下幸之助の一言1.「何のための仕事かね」

 工場で働く青年に、行っている作業の目的を聞いた言葉。青年はそれがわからず、作業を指示した主任に聞いた。しかし、主任も的確な解答ができなかった。幸之助は仕事を指示する者も行う者も目的を明確に認識すべきと語った。

 鉄則1.「仕事の目的と行動が合っているかに注意せよ」

 できるマネージャーの第一歩は、目的と行動が一致しているか、目的と行動にブレがないかをチェックできるかどうかだ。現場の視点で、常に仕事のあり方を見直し、部下が誤った意識で仕事に取り組んでいる場合には、適切な助言や指導をすることがマネージャーの大きな責務である。

松下幸之助の一言2.「きみならできる!」

  安価なアイロンの開発を命ざれた技術者が自信のなさから躊躇するところ、幸之助は開発の必要性を説いた上で力強く誠意に満ちて語ったのがこの言葉。

 鉄則2.「部下のモチベーションを高めよう」

 マネージャーとして陥ってはならないのは役に立たない人材という見方をすること。人間は誰でも能力を生かせる状況におかれればそれをフルに発揮するもの。必要なのはそうした個々の人間の可能性を信じること。

松下幸之助の一言3. 「きみ、座布団が裏返しや」

  京都東山山麓の真々庵によくお客を招いていた幸之助。庭の打ち水のタイミング、お客様の歩くコースや庭の説明の手順など細かい配慮をした幸之助。座布団の表裏、前後、並べ方など細かく支持を与えた。

 鉄則3.「些細なことをおろそかにしない」

 難しいことよりも平凡なことを大切にして、それを積み重ねて基礎をつくり、その基礎の上に、自らの経験を生かしていく姿勢。些細なことをおろそかにしない進め方をマネージャーは部下にきっちり認識させなければいけない。

松下幸之助の一言4. 「お客さんに申し訳ない」

 品質に多少問題がある商品の出荷を迷って、上司の指示を請おうとしていた資材係に対し、お客様に迷惑がかかる恐れがあるなら躊躇なく返品すべきと言った幸之助。

 鉄則4.「自分本位にやるな、正しい倫理観に徹せよ」

 現在取りざたされているCSRの先駆け。組織が大きくなるとお客様に接する社員の比率が小さくなり仕事の臨場感が失われて自分本位の感覚で仕事をしがちになる。マネージャーはその恐ろしさを部下以上に敏感にとらえ、自分の仕事がお客さまの大きな満足につながっているという信念に徹さなければならない。

松下幸之助の一言5.「肝心なのはきみだよ」

 仕事がうまくいかない幹部がその原因を「優秀な部下がいないせい」と言った。それに対し幸之助は「大事なのは社員が示された方針をきちんと守るかどうか」なので、方針と会社の目標を示してやり方を明示するのが肝要とした。

 鉄則5.「目下のものに責任を押しつけてはならない」

 部は部長1人、課なら課長1人に一切の責任がある、というのが幸之助の鉄則。あらゆる部や課にはそれぞれ果たすべき使命があり、その使命遂行の最高責任者は部長であり課長。それだけに中間マネージャーの責任は大きい。方針や目標を明示し、やる気を高めて、それぞれの部下の適性や能力を徹底的に引き出すかどうかが手腕の見せどころとなる。

松下幸之助の一言6. 「しるこ屋をやれ!」

 発売したコタツに不良が生じる可能性が発覚し、その回収に奔走する課長に言ったことば。しるこ屋を開くには市場調査、商品開発努力、リサーチ等の努力の積み重ねが大切。安価なしるこの販売でもそうなのだから、高価な電化商品ならその百倍、二百倍の努力が必要と説いた。

 鉄則6.「マネージャーはまさしく’経営者’だ」

 部下がマネージャーの立場でありながら、経営のコツや妙味というものを会得していないと感じると、幸之助は個人事業主の仕事を学ぶように叱咤した。しるこ屋の他、魚屋、屋台のそば屋などから経営感覚を学び、すべてのマネージャー、社員が責任をもって自分の仕事を把握し、経営しているという高みに立った感覚で仕事をマネージすべき。