裁判官の爆笑お言葉集

 日本の裁判は、無味乾燥な判決文を大量生産し、当事者を置いてきぼりにしているという批判があるそうです。私の数回の傍聴経験では、実に事務的に淡々と事が運ばれる印象を持ちましたが、裁判官の中には法廷の場で人間味あふれる発言をする方もいるようです。

 『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書・発行 長嶺超輝・著)は、次の10章から構成されています。

第1章 死刑か無期か? ~ 裁判長も迷っている
第2章 あんた、いいかげんにしなさいよ ~ あまりに呆れた被告人たち
第3章 芸能人だって権力者だって ~ 裁判官の前ではしおらしく
第4章 被告人は無罪 ~ 「有罪率99.9%」になんか負けない
第5章 反省文を出しなさい! ~ 下手な言い訳はすぐバレる
第6章 泣かせますね、裁判長 ~ 法廷は人生道場
第7章 ときには愛だって語ります ~ 法廷の愛憎劇
第8章 責めて褒めて、褒めて落として ~ 裁判官に学ぶ諭しのテク
第9章 物言えぬ被害者を代弁 ~ 認められ始めた「第3の当事者」
第10章 頼むから立ち直ってくれ ~ 裁判官の切なる祈り

 今回は 第2章から、ふざけた被告人とそれに喝を入れる裁判官の一言をご紹介します。


第2章  あんた、いいかげんにしなさいよ ~ あまりに呆れた被告人たち

しっかり起きてなさい。また机のところで頭打つぞ。

<裁判官> 東京地裁 阿部文洋裁判長 当時53歳
<発言時の背景> 殺人、殺人未遂、殺人予備・・・等々の罪に問われたオウム真理教の元教祖・松本智津夫の第95回公判。教団の元幹部新実智光の証人尋問中にあくびをする被告人に対して。

 

それは、あなたの思い込みではないですか。

<裁判官> 千葉地裁 小池洋吉裁判長 当時56歳
<発言時の背景> 新興宗教団体「ライフスペース」代表・高橋弘二が入院中の父親を病院から無理矢理連れだし、デタラメな治療をして死なせた事件。殺人罪に問われた元代表が「もともと治療不可能。『定説』による判例では、有罪にならない」と主張して。

 

この前から聞いていると、あなた、切迫感ないですよ。

<裁判官> 東京地裁 川口政明裁判長 当時54歳
<発言時の背景> 建築基準法違反、議員証言法違反、建築士法違反幇助の罪に問われた元一級建築士・姉歯秀次に対する被告人質問で。「貧乏」も偽装していた姉歯被告の切迫感のない発言に裁判長の怒り爆発。説教は30分続いた・・・

 

いい加減、これっきりにしてください。

<裁判官> 名古屋地裁 池田信彦裁判官 当時46歳
<発言時の背景> 「だってバックが素敵だから」という理由で万引きを繰り返し、窃盗の罪に問われた母娘に執行猶予つき有罪判決言い渡して。

 

交通事故裁判での、被害者の命の重みは、駅前で配られるポケットティッシュのように軽い。遺族の悲嘆に比して、加害者はあまりに過保護である。命の尊さに、法が無慈悲であってはならない。

<裁判官> 京都地裁 藤田清臣裁判官 当時55歳
<発言時の背景> 飲酒運転と赤信号無視によって発生した交通死亡事故で、被告人に懲役3年の実刑判決を言い渡して。

 

執行猶予を当然と思わないでほしい。

<裁判官> 松山地裁 前田昌宏裁判官 当時45歳
<発言時の背景> 睡眠薬で眠らせて金品を奪ったとして、昏睡強盗の罪に問われた被告人2人に、執行猶予つきの有罪判決を言い渡して。

 

もし、犯人でないのなら、説明してくれればありがたかったとも思います。たしかに黙秘権は被告人の権利。だが、あなたの声をもう少し聞いて判断したかった。

<裁判官> 京都地裁 上垣猛裁判長 当時56歳
<発言時の背景> 強盗殺人の罪に問われ、逮捕当初から容疑を否認し続け、 法廷では黙秘。最終陳述でも「身に覚えがない」と述べ、一貫して無罪を主張し続けた被告人に対し、数々の状況証拠を検討したうえで、求刑どおりの無期懲役判決を言い渡して。

 

刑務所に入りたいのなら、放火のような重大な犯罪でなくて、窃盗とか他にも…

<裁判官> 静岡地裁 某陪席裁判官
<発言時の背景> 捕まって刑務所に入ることを志願して、国の重要文化財である神社の拝殿に火をつけ、非現住建造物放火の罪に問われた男に対して。

 

タクシー公務員には、雲助まがいの者や、賭け事などで借財を抱えた者が、まま見受けられる。こうしたことは、顕著な事実と言ってよいかと思われる。

<裁判官> 京都地裁 山本和人裁判官 当時38歳
<発言時の背景> 600万円以上の借金を抱えたタクシー運転手が、車内で眠り込んだ客を河川敷に連れていき、殺害して財布を奪った強盗殺人事件で、被害者に約9,500万円の損害賠償支払うよう、運転手(刑事裁判では無期懲役刑が確定)とタクシー会社に命じて。

 

暴走族は、暴力団の少年部だ。犬のうんこですら肥料になるのに、君たちは何の役にも立たない産業廃棄物以下じゃないか。

<裁判官> 水戸家裁下妻支部 富永良朗審判官 当時52歳
<発言時の背景> 暴走族のメンバーだった15歳少年が、他のメンバーか らリンチを受けて死亡した事件。非公開の少年審判の中で、担当の審判官(裁判官)から、そのような主旨の発言があったと、のちに加害少年の両親が、地方裁判所で証言した中で。

 

飲酒運転は、昨今、非常にやかましく取り上げられており、厳しく責任を問われる。時節柄というか、そう簡単には済まされない。

<裁判官> 大阪高裁 白井万久裁判長 当時64歳
<発言時の背景> 業務上過失致死と道路交通法違反(酒気帯び運転)の罪に問われた被告人に、一審が言い渡した懲役1年の実刑を破棄し、あらためて懲役1年6ヶ月の実刑判決を言い渡して。