大震災・生き残りマニュアル!

 日本列島は地震の活動期に入ったとの見方が有力です。阪神淡路大震災をはじめ近年起こった大規模地震を思うと、とても「自分には起こり得ない話」とは片付けられません。

 気象庁では平成18年8月1日から緊急地震速報の提供を開始しました。各種交通機関、工場、病院などに対し地震発生の約10秒前にその情報を提供し、地震被害の発生を最小にとどめるために利用してもらおうというものです。たった10秒ですが、電車を止める、エレベーターを最寄り階で停止させるなどの対処でかなりの被害を防ぐことが出来るでしょう。

 地震が発生する時間帯に1日24時間偏りがないと仮定すると、ビジネスマンにとって地震被害を受ける場所は「仕事の場」であるという可能性が最大です。そこで今回は、(防災・危機管理ジャーナリスト渡辺実氏+日本経済新聞生活情報部編集・日本経済新聞社発行) 『大震災 そのときどうする? 生き残りマニュアル』から、ビジネスパーソンが被害直後の危機を突破し、笑顔で家族と再会するためのノウハウをご紹介します。


Ⅰ 仕事場でグラリ。どうする?

1.オフィスビルにいたら…

  • 超高層ビルは地震のショックを揺れで吸収する構造なので横揺れが大きいが、落ち着いて。危険な窓際から離れ、机の下などにもぐって、しっかりとつかまる。頭に雑誌や本を乗せて保護するのも一手だが、落下物で動脈を切らないよう手首は必ず内側に。
  • 建築基準が緩かった、築25年以上前の建物は倒壊の危険あり。建物の外へ逃げる。

一口メモ

鉄筋内部にダメージが及び、柱に×印に亀裂が入ると建物を支える力はない。 ビル全壊か、中央階がつぶれる可能性あり。

2.エレベーターの中だったら…

  • 避難にエレベーターを使うのは厳禁。運悪く乗っていて被災したら、レスキュー隊は数日来ないとの覚悟で、体力の消耗を防ぎながら根気強く救出を待つ。 落ちない構造なので、安心を。天井を開けて逃げるのは映画だけの話で、実際には中から開かない。
  • 全員で大声を出してもムダ。やるなら順番を決めてドアをたたく。時間がたてば携帯電話がつながる可能性も高まるので、被災直後に電話をかけまくって電池を消耗しない。
  • トイレはスーパーの買い物袋などで代用。口をしばって一カ所に置く。女性への配慮を忘れずに。

一口メモ

セキュリティー重視の観点から、入室に暗証番号やIDカードが必要な会社が増加している。万一の時セキュリティーチェックポイントのロックが外れなかったら、エレベーターの中と同じ状況に。事前にチェックしておくこと。

3.運転中だったら…

  • 一般道なら「車を捨てろ」は嘘。ラジオ、テレビ、カーナビは貴重な情報収集手段になる。邪魔にならないところに避難し、車から離れず情報収集を。但し、火災が迫ったときは、降りて避難を。
  • 高速道路なら、橋脚倒壊の恐れがある。追突を避けるため後続車に注意して減速し、道路の左側へ停車したら非常階段から避難する。

一口メモ

車を離れるときは、ダッシュボードの上にメモを残す。メモには日時・住所・氏名・連絡先を明記のこと。キーはつけたままで、ロックもしない。

4.電車・地下鉄に乗っていたら…

  • 揺れを感じたらドアから離れて手すりやつり革につかまる。電車が停止した ら乗務員や駅員の指示に従う。勝手に非常コックを開いて社外に出るのは危険。 対向列車にはねられたり、高圧電線に感電する恐れも。

5.街中にいたら…

  • オフィス街・繁華街で怖いのは落下物。割れた窓ガラスや看板も凶器になる。揺れがはげしいときはその場にしゃがんでバッグや上着で頭を守る。揺れが落ち着いたら建物から離れる。
  • 住宅街でも怖いのは落下物。エアコンの室外機や、ブロック塀、自販機に注意する。
  • 地下で怖いのは火災と煙。地下街で煙やガスを感じたら身体を低くしてすみやかに地上に。地下街には60メートル間隔で外部への階段がある。避難の際、携帯電話が懐中電灯代わりに。

 一口メモ

古いビルでは、「建物の高さ」=「ガラスが飛び散る範囲」と言われています。 その上倒壊の危険も。早く、見通しの良い広い場所に避難すること。


Ⅱ 揺れが収まった。どうする?

1.会社に連絡。確実な手段は?

  • 「携帯電話が繋がらなくなる」は嘘。03、0422など、局番全体に通信規制のかかる一般回線と違い、携帯電話はアンテナ毎の規制でしかも100%規制はかけない。少し移動するとかかることも。時間がたてばさらに可能性は高まる。
  • メールには規制はかからない。時間はかかるが、電話よりつながりやすい。
  • 優先して通話が確保される公衆電話は、大規模災害時無料扱いに。グレーの電話はそのまま使え、緑はコインが戻る。予め話の要点をまとめておこう。

一口メモ

携帯電話の電池が空になると、携帯用充電器は使えない。空になる前に充電を。

2.伝言サービスはこうして使う

  • NTTグループが提供する災害時伝言ダイアルは「117」。一般電話、公衆電話、携帯電話、PHSから「117」をダイアルし、伝言を録音・再生。保存は48時間で消去される。「117」に関する問い合わせは、「116」まで。
  • パケット通信を利用して、NTTドコモ、ボーダフォン、auなど携帯電話各社が提供する安否確認システム。一つの携帯電話につき10件のメッセージを録音出来る。使用方法は、携帯電話のトップメニューから「災害用伝言板」を選択し、入っていく。

※以上、2サービスとも1月以外の毎月1日に体験サービス実施中。

3.的確な被害情報を入力する

  • まずは公共放送で情報を入手。情報は刻一刻と変わり、精度が高まるので、第二報まで聞いて確認を。
  • 災害直後にはよくデマが流れる。より多くの情報を得るのみならず、情報を精査する事も大切に。

一口メモ

噂がエスカレートしがちな災害時の「全」がつく情報はデマのことも。例えば「全滅」、「全員」。また、断定的な発生時刻を入れた警報なども疑って。

4.避難時の注意は?

  • ハンドバックは荷物を入れるのに便利。会社でも身近に置く習慣を。
  • ミュールなど脱げやすい靴は危険。ハイヒールはヒールを折って避難。女性のナイロン製ストッキングは熱に弱いので溶けて肌にくっつき大火傷の原因に。建物から退去し動揺が収まったら、脱いで避難すること。

5.どこに避難?

  • 会社の災害マニュアルに従うのが最優先だが、臨機応変の対応に備え、地域の避難場所、避難所を確認しておく。外出先では地元の人に尋ねる。

 一口メモ

○避難場所:災害時、身を守るために一時的に避難する場所。公園や広場が多い。
○避難所:災害により家を失った人が一定期間、避難生活を送る場所。防災・救援の拠点となり、給水・給食が行われる。

●ビジネスパーソンの場合、来社していた取引先やお客さんの安全確保も欠かせない。これを欠くと、企業・社会人としての信頼を失う事に。

6.帰宅するべきか、とどまるべきか?

  • 一刻も早く帰宅したいのが人情だが、鉄道は止まり、道路は直ちに通行規制がかかり、ほとんどの交通手段が失われる。橋の落下や火災で遠回りを強いられ、平時の地図は役に立たない。よほど近距離の場合を除き、公共交通機関や道路の復帰を待つのが賢明。
  • オフィス街や繁華街にはけが人があふれる。無理な帰宅を急ぐより、腹を決めて救援活動に加わるのも一法。避難所の情報を活用して。

一口メモ

‘帰宅困難者’とは、大災害で交通機関が機能せず帰宅が困難になる人のこと。正午、首都圏で直下型地震が起きた場合、帰宅困難者は一都三県で650万人に達するとみられる。

7.都市部での避難所サバイバル生活のコツは?

  • 避難所は、原則地元住民向け。キャパシティーに限界があればビジネスパーソンは移動させられる事も。滞在期間が長引きそうなら、トイレ処理など率先して溶け込む努力を。会社単位の避難なら、女性はまとまって行動を。
  • 非常時である事を忘れず、無理な事を望まない。また、集団生活のルールを守って。
  • プライバシーは守れないので、段ボールの仕切など利用して。電気はつきっぱなしなので、耳栓やアイマスクが役立つ。


Ⅲ 家に帰ろう!

1.帰宅ルートの選び方は?

  • 緊急車輌などに注意しながら道の真ん中を歩く。これで、余震による落下物や火災の危険から少しは逃れられる。
  • 「危険地帯」と指定されている場所には近づかない。近道だとしても、二次被害に遭わないため。

2.帰宅の足は何がいい?

  • 徒歩は移動手段として確実だが、場合によると数日が必要になることも。因みに革靴で一気に歩ける距離は「10キロ程度が限度」
  • 車での移動は、緊急の場合を除き避けるのが原則。自転車もは、粉々になったガラスでのパンクに注意する。

一口メモ

夜間の女性一人歩きはNG。行動は、信頼できる男性と一緒に。

3.帰宅する際にないと困るものは?

  • 三種の神器は「携帯電話」「水」「現金」

4.食料などはどこで調達?

  • 被災者向けの食事は避難所に届く。避難所生活者以外にも支給される。 支給は、1日1000円以内の食事と定める災害救済法の適用による。
  • 現代の日本の災害で餓死者は出ていない。災害後3日もすれば、混乱した状況もかなり落ち着く。まずは身の回りの安全確保を優先。食料を取りに行って二次災害に巻き込まれないように。

一口メモ

首都圏8都県市はコンビニ9社と大規模災害時の帰宅困難者支援協定を締結。
水やトイレの無料提供や道路状況などの情報提供を行う。

5.負傷者の応急手当のコツは?

  • 救急車がすぐに来てくれるのは期待薄だが、専門知識なく心臓マッサージや人工呼吸をむやみに行わない。119番通報や、群衆整理などで協力を。
  • 大量出血が起こった場合や骨折の可能性がある場合は応急処置を。

一口メモ

一度に血液の3分の1以上を失うと危険。直ちに止血が必要になるが、救急法の講習を受けるなどしておくとよい。 骨折が疑われる場合、けが人に楽な体位をとらせ、骨折部を動かさないようにしてそっとしておくこと。

6.自宅に着いたら家族がいない。どうやって捜せばいい?

  • 上記の「117」などでも連絡が取れないとき、先ずは最寄りの避難所へ。
  • ケガなどで病院にいるかも。ただ、個人情報保護法の壁がある可能性も。
  • 自宅に張り紙は、留守を公言しているようなもので危険。


揃えておきたい防災グッズ

 ■ 身近に用意しておきたいもの

* 携帯電話(連絡手段に不可欠)
* 携帯電話用充電器(複数持っていると便利)
* 携帯ラジオ(電池いらずのタイプもある)
* 現金(少しでも多いと安心)
* 筆記具(ボールペンは止血にも役立つ)
* ハンカチ
* 地図
* ペットボトル(水分は大切)
* チョコなど簡単な非常食(空腹感を解消)
* 懐中電灯
* 免許証や保険証のコピー(預金引き出しに役立つ)
* ビニール袋(使い道いろいろ。簡易トイレにも)

 ■ 持っていると便利なもの

* ウェットティッシュ(水が使えないとき便利、タオル代わりにも)
* 生理用品(止血にも役立つ)
* メガネ・コンタクト(予備があると便利。コンタクトの人はメガネもあると便利)
* 基礎化粧品(ストレスが高い避難所では、あると気持ちが落ち着く)