女性登用が遅れる日本

 高い能力を持つ女性が社会で活躍する現実は同じ女性として誇らしいことであり、また、理想とするところでもあります。

 過日、米経済紙ウォールストリート・ジャーナルは、経済界などの「注目すべき女性50人」のリストを発表し、日本からはメリルリンチ日本証券の小林いずみ社長ら3人が選ばれています。米経済誌フォーチュンも、米国以外で活躍する「最強の女性」リストを発表しており、日本からは野中ともよ三洋電機会長(5位)と林文子ダイエー会長(10位)がトップ10入りしています。

 しかし、これらの人達はどちらかと言うと’例外的’な存在と言えそうです。「世界経済フォーラム2005年の調査」によると’女性の経済的機会が大きい国’58か国のランキングでは日本は最下位に近い52位という結果が出ています。因みに、デンマーク、ノルウェー、ハンガリーがベストスリーで、9位フランス、23位中国、41位イギリス、アメリカも意外と低く46位です。

 今回は、日本経済界における女性の参加の実態を検証してみます。


1.HPの取り組み

 米ヒューレット・パッカード(HP)は世界的に見て管理職全体の20%に女性が登用されています。さらに米国では25%超なのに対し、日本ではたった4%に満たないのです。対策として、女性社員のモティベーションを高めるためにコミュニケーション技術や時間管理、仕事と家庭の両立などについて話し合える支援組織を作っています。
 その過程で支援者サイドが女性社員に持った印象は「高い能力を持ちながら、どれほど自分が有能かわかっていなかった」ということです。

2.日本で管理職の女性が少ない理由

 仕事と家庭の両立など、世界中の女性が直面する理由以外に、日本ではあからさまな男女差別や根深い職業上の役割分担など解決が容易でない社会問題が存在しています。
 日本では女性の地位向上が遅れていたという歴史的事実がありますが、女性自身も家庭に専念できる立場を特権と感じていました。ですから、世界中の女性が平等を求めた運動を展開する中でも日本女性は主に職場以外の権利平等を訴えていました。職業上の性差別を自ら容認していたのがその理由です。
 多くの女性が大学を卒業し、パートタイムを含めた労働者全体の41%を女性が占める現在でも、古い習慣が連綿と続いており、男性は「女性には責任が負えない」と考え、女性はロールモデルがあまり存在しない中「自分は管理職向きでない」と思い込み、挑戦に立ち上がらないという現実があります。

3.女性は自分に自信を

 日産自動車カルロス・ゴーン社長は、「日本企業は将来の成長を確かにするために女性の地位を高めなければならない。それには女性が自信を持つように、自信の欠如がほんの一握りの女性しか経営の責任を持つ立場にならないという現実を生む」と訴えます。
 HPのマーケティングのプロ本間智子氏は、日本女性は管理職の仕事は私生活を脅かすものだと考えており、積極的な行動は魅力的でないという古い観念に縛られていると言います。また、管理職3412人中女性は21人というシャープで女性登用施策を率いる森仁美氏は、「男性は往々にして女性に対して強い固定観念を抱いている。多くの女性は自分で自分を制約してしまう」と言います。

4.労働力減少の歯止め策として

 就労年齢に達する若者の減少で日本の労働力は既に減少していますが、団塊の世代が引退し始める2007年からはさらにそれが加速します。その対応策として女性の労働力に期待しなければならず、各企業は女性育成、女性幹部引き留め策に躍起になっています。
 女性管理職の積極的な登用も実行されつつありますが、その背景には管理職に登用された女性自身の’自分の能力でなく女性だから管理職になれた’との思い込みや’経験の無い女性管理職は所詮サプライズ目的のお飾り’など、別の誤解も生まれていて、長く続いた固定観念を払拭するにはまだまだ時間がかかりそうです。

5.実現可能な現実として

 HPの女性活用プログラムを率いる川合昭子氏は、昨年女性社員達を韓国で開催された国際女性サミットに連れて行きましたが、その参加者が世界の女性経営者や女性閣僚に接して驚いたのは彼女達の「普通さ」だったと言います。そして、「トップに上り詰めるのは実現不能な夢でなく、実際に自分で成し遂げられることと気付いた」との感想を持ったそうです。

 

[参考資料:日経ビジネス 2005.11.14号]