起業バカ

 世は「起業ブーム」です。来年には「新会社法」が施行され、現行のいわゆる’1円会社’よりもさらに容易に会社を設立することが出来るようになります。また、政府は大学発ベンチャーの育成、中高年・女性向け起業融資、創業セミナー開催などで「3年間で年間36万件」のペースに引き上げると宣言しました。今後「起業ブーム」にますます拍車がかかることは必至です。

 私は、自治体主催の「女性起業家支援講座」の講師を務めさせて頂いたり、税理士の立場で起業のお手伝いをさせて頂くなかで、社会認識が非常に甘い方がいらっしゃると感じることがあります。(もっとも、私もその一人かも知れませんが・・・) 起業には、他に秀でた商品あるいは技術、営業能力、資金力、経営能力等々様々な要素が必要ですが、それらの能力の有無を客観的に判断することなく、あるいはその必要性にすら気付かず、見切り発車してしまう方も多くいらっしゃるようです。

 「起業バカ」(渡部仁 著 光文社発行)によると、成功する起業家は1500人に1人。起業家には 見込み違い/裏切り/貸し渋り/資金繰り地獄/身ぐるみ剥がされる個人保証/連鎖倒産/ベンチャー支援のワナ/パクリ屋の儲け話/フランチャイズ詐欺/大企業のベンチャー潰し/下請けの悲哀・・・など無数のワナが待ち受けていると言います。

本著は

  1. みんなこうして失敗した
  2. 起業ではまる3つのワナ
  3. 「起業後」に待ち受ける誘惑とワナ
  4. 脱サラを喰いものにするフランチャイズ商法
  5. フランチャイズは底なし沼
  6. いまのニッポンで起業するのは損か得か?
  7. ベンチャーにはだかる4つの「抵抗勢力」

の7章で構成されていますが、普通のサラリーマンが起業を考えたときに先ず考えてみるという『フランチャイズ』に関する章から、フランチャイズの仕組みや問題点をご紹介します。


1.フランチャイズ(FC)の現状

FC業界はコンビニを筆頭にファーストフード、家具・家庭用品、レストラン、居酒屋、弁当・惣菜、回転寿司、衣服・飲食小売、レンタルショップ、100円ショップ、学習塾、最近では不動産、葬儀、介護、ペットショップ、探偵、防犯グッズ店、骨董店、アダルトショップ・・・と、あらゆる小売・サービス業を網羅している。業界の市場規模は18兆円。本部数は1000を超し、加盟店数は21万点にのぼる。

2.FCの仕組み

FCとは、本部(フランチャイザー)がビジネスモデル(新業態、経営ノウハウ、ブランド、商品・サービス)を開発し、それを加盟店(フランチャイザー)に供与してチェーン展開する形態である。本部は加盟店とFC契約を結び、事業の立ち上げから経営指導まで面倒をみる。その際、加盟店は本部に加盟金を払い、開業費用を負担し、毎月一定のロイヤリティーを支払う。これがコンビニや外食チェーンFCの標準タイプとなる。  また、内装工事、商品仕入、開業融資、什器備品等々事業に関連する部分に利権の仕組みが設けられていて、これにより二重、三重・・・と加盟店から利益を得る構造になっている。   主な大手FC本部の業種別利益率の比較は下記の通り。コンビニ、弁当、学習塾の突出ぶり、特にセブンイレブン(10617店)と明光義塾(1165教室)の利益率は異様とさえ感じる数字だ。

社名・業種 売上高対経常利益率(%) 売上高対 純益率(%)
■ コンビニ
セブンイレブン 35.9 19.6
ローソン 14.9 7.6
ファミリーマート 13.2 6.0
サークルKサンクス 11.6 4.5
■ ファミリーレストラン
すかいらーく 4.9 1.3
■ ほっかほっか亭
プレナス 12.6 6.3
ハークスレイ 12.1 6.4
■ ファーストフード
マクドナルド 2.6 1.3
ケンタッキー 3.6 1.5
モスフード 4.3 1.9
■ カレー店
壱番屋 8.3 4.7
■ 居酒屋
大庄(庄や) 5.3 1.2
■ カフェ
ドトールコーヒー 7.9 1.2
■ 学習塾
明光ネットワーク 25.7 14.2
■ レンタルビデオ
CCC(TSUTAYA) 3.7 1.7
■ 古本
ブックオフ 5.7 2.6
■ 中古車
ガリバー 6.3 3.3
■ カー用品
オートバックス 4.6 2.4
■ クリーニング
白洋舎 1.4 0.9

 

3.加盟店の実態と困惑

FC本部の繁栄の実態は上記の通りだが、加盟店はどうなのか?基本は「生かさず殺さず」だそうだ。一つの加盟店が出店できる数は上限が設けられていて、いくらでも出店できるわけではない。本部は加盟店に統制が利かなくなるほど大きくなって反乱など起こされては困る。加盟店に利益が集中するのも困る。

FC契約を巡り、加盟店から相談を持ちかけた弁護士との一問一答

Q. FCの法律相談で多いのは?

A.

当初の話より条件が厳しい、本部の事業計画どおり売上が上がらない。 脱退したいが高額の違約金を取られる、権利金を返してくれない。

Q. 本部と加盟店のどっちに問題があるのか?

A.

甘い収益見通しで加盟金を狙ったような、本部に問題がある悪質なケースはごく一部で、殆どは加盟店に問題がある。業界の知識もノウハウもなく、FCで大儲けできると思い込む甘さがその原因。

Q. 本部の甘い話に乗せられたケースも多い?

A.

FC本部の営業は調子のいいことを話す。加盟店の成功事例を見せ、肝心なところは口頭の話で済ませて、はっきりした資料を見せない。ポイントは必ず紙に書いてもらうこと。

Q. FCは契約が基本だが、素人には理解がしんどいのでは?

A.

人生も資金もかけて事業をするのだから、しんどくても読まなくてはダメ。できれば弁護士に見せて問題点を指摘してもらったほうが良い。直して欲しいところがあれば交渉すべきだが、先ず直してはくれない。その場合は思い切って辞めてしまうという選択も。

Q. 契約は絶対的なものか?

A.

一旦ハンコを押したら契約が絶対。口頭の説明と内容が違っても、「言った言わない」の水掛け論になるので争う余地は少ない。但し、独禁法に触れる不公平な取引なら別。

Q. 事業計画が大ハズレだった場合はどうなる?

A.

本部が、目安として話したのか、確実なこととして話したのかで違う。経営の失敗は実際に経営している加盟店の責任でもあるので、本部の違法性を認めるのは相当極端なケース

Q. FCでは、契約で商売のやり方が細かく縛られているが、契約期間は何年が適当か?

A.

経済変動の激しいいま、10年15年と縛るのは長すぎる。せいぜい5年程度が適当

Q. FC特有のロイヤリティーの限度額はあるのか?

A.

企業同士の取引なので、自由契約に任せられている。

Q. 違約金の上限はないのか?

A.

よほど極端で無い限り、上記同様制限は無い。

 

4.FC加盟で気を付けなければならないことはどんな点か?

基本は、とにかく契約書をじっくりと読むこと。実際には、意外と読んでいない人が多い。そして疑問を持ったら契約しないこと。本部任せにせず自分で事業計画を確かめること。交渉の際には何らかの文書をもらい、後の係争の際に証拠とする。そんなものないと言われたら、最初から信憑性が無い商売と判断するのが賢明。

 

5.FC加盟失敗事例

FC加盟して事業に失敗した方々の体験談が紹介されている。ここでも、FC本部の酷い実態が浮き彫りにされているが、結局その本部と契約を結んだしまった加盟店の責任であり、後始末をしなければならないのも加盟店。

コンビニの失敗事例 (敗因)本部の契約の縛りが強すぎた 調剤薬局の失敗事例 (敗因)本部を盲信し、甘い見通しを続けてしまった パソコン学習塾の失敗事例 (敗因)コンピューターソフトがあまりにデタラメ 弁当店の委託経営 (敗因)本部のヒガミにあってハメられた!