相続税節税術

 平成25年度税制改正により、相続税の基礎控除額が40%引き下げられることになりました。テレビ番組や雑誌などで『相続税大増税時代の到来!』など特集が組まれているのを見る機会も増えました。一説では、現在亡くなった方の約4%に相続税の納税が発生しているのが約6%に増えるとのことです。多いのか少ないのか…ちょっと微妙な数字ですが、資産をお持ちの方は念のために相続税の試算をしたり、節税を考えたりの対策は必要ですね。

 さて、どのメディアの情報を取っても節税の中身は大体似たり寄ったりのようです。ただ、極端に‘節税’にのみ目的を絞った情報もあり、‘税金安けりゃ何でもあり’の選択をして別のトラブルを起こさないようにしたいものです。

例えば…

1.  借金をして、自分の土地にアパートを建てる

 住宅メーカーさんからこんな提案を受けた方も多いでしょう。土地の評価を下げられる。建物の評価も投資額より低くなる。おまけに借入金は債務控除として相続財産から減額できる。すべてその通り間違いありません。相続税を減額することが出来ます。

ただ、アパート経営が上手くいくのか慎重な検討が必要です。アパートは入居者が確保できる立地なのか?アパート収入は借入返済や不動産所得の納税に充てるのに十分か?借入金を孫の代まで残すことはないか?…などなど考えてみて下さい。目の前の相続税を減額できても、その先借金が返せなくなって土地を金融機関に取られたり、孫に多額の借金を背負わせたりするなら、最初に相続税を払っておく方がよほど健全です。

2.  同居の嫁と養子縁組

 相続人が増えれば相続税の基礎控除額が増える。そこで、同居して世話になっている息子の嫁と養子縁組するというアドバイスもよく目にします。確かに基礎控除額を増やせますが、当然相続人となり相続財産を受け取る権利を得ます。特に他にも‘息子の妻’がいる場合、家族全員が心の底から賛成してくれるでしょうか?また、養子縁組した息子の妻も思い責任を背負わされたと負担に思っていませんでしょうか?

 ‘相続’を‘争族’という言葉で表す方がいるように、今まで仲の良かった家族が相続をきっかけに仲違いするケースはたくさんあります。これもまた、目先の相続税の減額にばかり目を向けて、他の大切なものを失ってしまうケースと言えるでしょう。

3.  相続時精算課税制度の適用

 私の経験では、金融機関の方が相続時精算課税制度の適用を勧めるケースが結構あるように思います。ただ、目先の贈与税の負担を軽減するために安易にこの制度を使わないことをお勧めします。これはあくまで‘相続時に精算する’制度です。相続時に相続税が課税されない方ならさほど問題はないのですが、相続税が課される方ならこの制度を利用しない方が節税できるケースもあります。

 とにかく‘一度選択したら二度と元に戻れない’のがこの制度です。慎重にご検討下さい。

4.  上層階のマンションを買おう

 ご存じの通りマンションの価格は上階の方が高額です。でも、相続税においては、占有面積が同じなら上層階でも下層階でも評価は同じです。現金や預金で持っているとそのままの金額で評価されますが、それが土地や建物にかわるとそれだけで評価は約2割減。さらにマンションの上層階だと節税効果はさらに大。これがこのアドバイスの理屈です。

でも、本当にそうですか!? 相続税を減額したいために不要の資産を購入するのなら、現預金でもらって相続税を支払う方が、よっぽど相続人は納得出来ると思うのですが如何でしょう?