しがらみを断ち切る

 企業は事業を継続していく中で、様々なしがらみにとらわれます。最初は小さなしがらみもいつか肥大し、経営の重荷になってしまうことも多いようです。「日経TOP LEADER 2014.3号」では、しがらみを断ち切るコツや考え方について解説されています。本記事から、実例による‘後継者だからできる解決法’のエッセンスをお紹介します。

 

【しがらみを超える五つの視点】

 

1.先代の改革から学んだ経験を生かす

① 会社名・後継者

・チロルチョコ㈱ ※ご存知チロルチョコの製造販売を手掛ける会社で、松尾製菓㈱より分離

・松尾利彦社長 ※後継者として、先代の取り組みを良く見ていた。

② ‘しがらみ’の中身

 子供が駄菓子屋にいた時代の成功体験から抜け出せない。コンビニとの付き合い方がわからず、また商品が小さくコンビニ必須のバーコードを印刷するスペースがなかった。

③ 後継者の対応

 時代の変化を一足早く感じ取り、早め早めに手を打つ必要がある。ただし、社員は劇的な変化を嫌がるもの。社員の面目を保ちながら会社を変化させることが重要。

 

2.他業界の視点でビジネス習慣を変える

① 会社名・後継者

・㈱ラッキー商会 ※山梨県甲府市の貴金属製造会社

・望月直樹社長 ※リクルートなどで企画営業に従事し、業界のことは全く知らないまま                                                                                                         入社3か月で社長就任

② ‘しがらみ’の中身

  発注を受けた製品を作成し、問屋経由で卸すのが業界のスタイルだったが、小売店が自社工場を持ちはじめるなど業界構造が変わり従来の形態では生き残れないのは明らかだった。しかも、材料としてのプラチナや地金を現金仕入してから売上代金が入金されるまでに4~6か月かかっていた。

③ 後継者の対応

 業界にはなかった‘企画営業’を導入し、自ら先頭に立って実行した。その効果は二つ。一つは、範を垂れることで今までにない企業文化を根付かせることが出来る。もう一つは、後継者である自分の能力や、経営者としての決意を社員に認めてもらえること。但し、昔から働く従業員を尊重して、組織をいじり過ぎないことも重要。

 

3.時間や場所の壁を取り除く

① 会社名・後継者

・㈱大都 ※元々は工具の卸売業。現在はネット通販により消費者に直売

・山田岳人社長

② ‘しがらみ’の中身

 金物店は、どれだけ足繁く通っても最終的には価格勝負で取引が決まる。ホームセンターは、問屋に厳しい商習慣が 残っていて、いずれにも将来性を感じなかった。

③ 後継者の対応

 ネット通販による消費者への直売に舵切をしたが、大きくて重いものが多い工具関連商品を自宅まで配達してくれることで復活を果たした。

 

4.「一緒に進む社員」を変える

① 会社名・後継者

・㈱伊藤工作所 ※金属加工会社で、元はメンテナンス事業を主力としていた

・伊藤達也社長

② ‘しがらみ’の中身

 従来の主力のメンテナンス事業に加え、省力機などの設計・製造に本格的に取り組むことで事業を伸ばそうと考えた。しかし、社員にその思いが伝わらず理解が得られなかった。

③ 後継者の対応

 会社にとって、「なぜ」その取り組みが必要だったのか?そして、「なに」を「どう」変えていけばいいのか?を具体的に繰り返し説明し、理解を得た。

 

5.「譲られる」でなく「自らつかむ」

① 会社名・後継者

・㈱タニタ ※主力は体重計。最近では「体脂肪計タニタの社員食堂」が大ヒット

・谷田千里社長 ※米国勤務を経て帰国し、経営を引き継ぐ

② ‘しがらみ’の中身

 体重計の分野で多くの特許と大きなシェアを持ち、それゆえに油断を招き「殿様商売」の面があった。その結果、競合の追い上げでシェアは低下していた。

③ 後継者の対応

 状況に深刻な危機感を持ち、先代の路線を踏襲することを否定して改革に乗り出す。その成果を見せるには数字で示し、明確な結果を通じて社員の信頼を高めながらさらに改革を加速ずる。改革の過程では、「今までのやりかた」を支持する意見も出るが、それにひるむことなく粘り強くしがらみを断ち切る必要がある。