流通進化論…「越境」で拓く新市場

 およそ10年ごとに新しい小売業が生まれ、その小売業が人々の暮らしをガラリと変えると言われます。  60年代、ようやく戦争の傷痕が癒えてきた日本において豊かさの象徴であり庶民の憧れの場所でもあったのは百貨店でした。続く70年代、百貨店の代表格である三越を抜いて小売業日本一になったのはダイエーです。80年代に一気に増えたコンビには人々の生活を一変させました。そして、バブル経済の生成と崩壊を経験した90年代にファッションに関する既存の価値観を変えたのがユニクロです。

 さて、長引く不況に追い討ちをかけた震災後、閉塞感の中にあっても流通業の進化は止まりません。生き残りのカギは「越境」。意味するところは「国境を越えて」と従来の常識やビジネスモデルを「乗り越える」です。今回は『日経ビジネス 2011.8.22号』(日経BP社)の特集”流通進化論…「越境」で拓く新市場”より、アジア各地での開店を推し進めるコンビニ各社の取り組みをご紹介します。


1.セブンイレブン

 ic_bb2 雌伏終えFC展開を本格化

 中国進出から7年が経過したが、セブンイレブンは北京への進出に関し他社に遅れをとっていた。ところがいよいよ2012年から攻勢に転じる。海外のコンビニ展開では現地協力工場での商品製造が一般的だが、セブンイレブンは日本国内で弁当やおにぎりの商品提供を受ける「わらべや日洋」が台湾系の中国食品大手と現地に合弁会社を 設立する。
 計画では2011年に50店、2012年に70店、2013年に100店を出店する予定。『質』を落さず出店の『量』も実現していく。
 カギは2つ。1つがFC化で、1つが店内調理の縮小。前者は望む形でのFCの認可が政府から下りなかったという問題が解決されたこと。後者に関しては人気商品の提供が出来たものの排煙問題から出店場所に制約があったが、前述の工場建設でこの問題が解消されることになったこと。

2.ファミリーマート

 ic_bb2「進化」引き出す世界経営

 台湾では人口2300万人に対し上位4社だけでコンビニ店舗は9500店ある。首位はセブンイレブンで約4800店だが、こちらは地場企業が運営している。これに対し台湾ファミリーマートは日本ファミリーマートが経営の主導権を握っている。
 台湾ファミリーマートの成功の理由は「移植」と「進化」。1988年の台湾進出当時、現地にはノウハウがなく、ひたすら日本方式を取り入れる「移植」だった。衛生管理 や品質管理など食品製造のための基本を日本から「移植」し、それを台湾流に「進化」させた。
 例えば、日本のエクレアの製造技術や流通管理のノウハウをベースに台湾の気候に合ったクリームやコーティングの新商品が開発された。また、税金や公共料金の支払いに関しては日本より取り扱い対象が広い。ドミナント出店に関しても日本より出店密度が高い。独自の物流サービスを提供しているからである。
 よい取り組みはお互い共有しながら、それぞれ独自の取り組みを深めるのが「移植」 と「進化」。グローバル展開を急ぐファミリーマートはそうした台湾モデルを世界各国で再現するためのマネジメント体制を構築しつつある。

3.ローソン

 ic_bb2 反転攻勢のカギは「人」

 ローソンが上海に進出したのは1996年。当初は独資で他社に先駆けて進出したが、フランチャイズ展開に関する規制が厳しく、経営の主導権を地場のパートナー企業に委ねざるを得なかった。そして地場企業の力で店舗開発を進め店舗数が倍増したもの の「質」が伴わなかった。店舗の清潔さ、サービスの品質、商品の構成など、「日本流 コンビニ」の品質から乖離してしまった。
 立て直しのため、2011年8月上海ローソンは経営の主導権を取り戻すべく国営系流通業に売った株式を買い戻し、議決権ベースの出資比率を85%に引き上げる。反転攻勢のカギは「人」だ。
 ローソンは昨年末から国内事業第一級の人材を惜しげもなく中国に大量投入しつつある。店舗を巡回する指導員を全員集めて行う店舗運営のミーティングの内容を一変して、一方通行の「報告」「命令」からメンバー自身が自主的に考える場とした。これにより質の向上を目指す。