「内向き」「ムダ」「遠回り」に商機あり ~ “非効率経営”の時代

 日本企業は戦後、効率経営に邁進してきました。ところが、効率性で世界の先頭に立ったと日本企業が思った瞬間、待ち受けていたのは人口減による国内市場の縮小でした。
 さらに、円高・資源価格高騰など交易条件の悪化・韓国や中国など新興国の勃興が追い打ちをかけました。もう効率化の追求による成長は困難になった今、企業はどこに成長の糧を見つければよいのか…。  その答えが「非効率」であり、今まで削る事の対象となってきたムダに新たな成長のヒントがあるとして、『日経ビジネス2011.1.10号』(日経BP社)に標題の特集が組まれています。
 今回は、本誌記事より”非効率経営”のモデルケースとしている企業の取り組みをご紹介します。


CASE1.大垣共立銀行 ~ 顧客殺到、行列のできる銀行

 同行半田支店(愛知県半田市)がオープンしたのは、2009年9月14日。開店前から客が行列を作り、店に入れない数1,000人が周囲に溢れた。これに対応する為のテント特設会場は1か月以上設置されていた。
 和室やキッチンが併設され、本棚の雑誌は漫画からクルマ雑誌、女性誌など100を超える。ATMは24時間営業で、深夜でも雑誌コーナーやトイレを利用できる。その他、同店行員が考えた300を超えるアイデアから生まれたサービスが用意されているが、アイデアは、行員が研修として参加するコンビニから生まれたものも多い。
 ATMにも特徴がある。24時間、365日利用可で、ドライブスルーでは車にATMが近寄る仕組み。待ち時間にはルーレットゲームとなり、当れば手数料が無料。さらに、スロットゲームでは、当ると現金が当たる。さらにポイントをためると特典サービスがある。また、ATMを搭載した車が過疎地を回る。  「地域の人々のためにならなければ、銀行の存在価値はない」(土屋嶢頭取)という信念に揺るぎはない。

大垣共立銀行の”非効率”

  • 巨額を投じたラウンジ付き移動店舗カー
  • 100種類を揃えた雑誌コーナー
  • トイレの24時間公衆化
  • ドライブスルーATMの開発・設置
  • ホテル・テレビ局などでの異業種研修

 

CASE2.アンデルセン ~ 「急がば回れ」で事業永続

 アンデルセンは、山崎製パン、敷島製パン、フジパンに次ぐ業界4~5番手に位置する。
 広島県北西部北広島町に「アンデルセン芸北100年農場」がある。ひどい酸性土壌で、収穫期は梅雨、冬は1mを超える雪となり、小麦栽培には適さないこの土地で小麦を栽培している。ここには、新入社員を中心に5名前後の社員が派遣されているが、運営の目的は原料調達ではなく、畑を作り麦を育てる過程そのものに主眼を置く。
 「日本人は1粒のコメをとても大切にする。だが、小麦の場合はそうではない。コメと同じように、小麦1粒を大切にする心を育てたいと思った」(アンデルセングループ持株会社社長 高木誠一社長)のがこの畑を作った理由だ。パンを作る技術よりも前にスピリットを持つ人材育成を目指しているが、この農場での研修に参加していない社員には浸透できておらず、現時点での評価は40点としている。

アンデルセンの”非効率”

  • 原野の開墾で社員教育
  • 利益を削って包装紙製作
  • 特許を他社にも開放
  • 非効率な設備をあえて導入
  • 40年前から「食育」を実践

 

CASE3.大里綜合管理 ~ 「地域のため」が自社のため

 売上高5億円前後の不動産中小企業でありながら、全国的に注目され存在。同社会議室では、ヨガ教室、太極拳、フラワーアレンジメント、パソコン教室、法律講座など地元の専門家を講師に30近くのカルチャー講座を開設している。また、住民シェフによるランチ限定レストラン、午後には学童保育の場として開放している。この他、大里綜合管理が立ち上げた地域活動は150種以上に上る。本業と無関係に見える活動を立ち上げる理由は、「ムダなものにこそ価値がある。私はそう思いたい」(野老真理子社長)。
 活動の目的は、二つ。一つ目は社員教育。社員は、地域住民との活動を通して気づきの力を培っていく。二つ目は地域の価値向上。同社の糧である不動産の価値を下落させないためには、地域の魅力を高める必要がある。

大里綜合管理の”非効率”

  • 会議室がカルチャーセンター
  • 会議室が日替わりレストラン
  • 駅前ロータリーの交通整理
  • 国道のガードレール磨き
  • 大里合唱団の設立
  • 50㎞ウォークの企画、実行 ―― 計150種以上