五感経営

 企業の業績も、個人の消費も、中国の勢いに圧倒されっぱなしの日本です。こんな時だからこそ、日本の強みは何だったのか再確認すべきです。その強みの一つが、「お客さまに対する神経質なまでの細やかな心遣い」です。『日経トップリーダー 2010.9号』(日経BP社)では五感を働かせ、感性を駆使する日本的経営の極め方を特集していますので、一部をご紹介いたします。


 ▽五感の超人、齋藤泉 … 顧客を感じれば4倍売れる

 1.齋藤泉さんは、

 山形新幹線「つばさ」の車内販売員歴18年のベテラン。東京から山形県の新庄まで片道3時間半、繁忙期には400人の客に20万円近くを売りあげる。車内販売の平均的な売上高は7~8万円というから、成績の良さがわかる。

 2.”背面販売”を

 いちばん大事にしているとのこと。ワゴンは社内を往復するので2回に1回は客の背後から近づくことになる。バックで進み客の顔を見ながら販売する方法もあるが、齋藤さんは「背面販売」にこだわる。

 背面販売は客の身の回りをじっくり観察できる。年齢・性別・身なり・荷物・テーブルの上・連れの有無や関係・往か帰か・・・それらの情報を売り方のヒントにする。

 大事なのは、全部の神経を使って客になりきり何が足りないか、どうして欲しいかを察知するということ。

 3.朝起きると同時に

 仕事は始まる。天気、気温、湿度はどうか、通勤途中では人々の服装の変化を、東京駅に着いたらビジネス客が多いか行楽客が多いかという人の流れを観察する。それにより売れ筋を予測してワゴンに積む商品を決める。予測が外れることもあるので、「予測⇒準備⇒確認⇒修正⇒反省」という基本動作を繰り返す。

 4.中国に齋藤さんはいるか?

 2010年4月~6月のGDPは中国が日本を上回った。経済規模で日本を抜こうとする中国だが、客のニーズを感受する能力は日本企業の比ではない。国威を示す上海万博会場でもその差が表れた。

 陳列の荒っぽさ、店員の態度、客の荷物への配慮などでは著しく劣る。狭い土地に密集して生活してきた日本人の細かい心遣いは脈々と日本企業に受け継がれている。そんな日本人と、大声で自分を主張することを是とする中国人では文化的背景がかなり異なる。ただ、中国人はそれがビジネスに必要なスキルだと気付けば顧客満足の思想を一気に吸収するはずだ。観光客として日本のサービスを体験すれば自国企業にもそれを求めるだろう。そうすればサービスと言う日本の専売特許を奪われかねない。

 5.五感経営は、

 人間力に立脚する経営の原点回帰と言える。日本人の特徴、日本企業の強みである細やかな感性を社員一人ひとりが磨くこと。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という人間の持てる能力を目いっぱい働かせて、お客に尽くす「五感経営」が日本企業の強みなのだ。