だから社長は間違える

 どんな経営者でも、重大な経営判断の局面において不安や恐れ、緊張から思わぬ不合理な選択をしてしまうことがあります。そんな決断ミスには3つの典型的なパターンがあるので、それを知っておくだけで失敗を未然に防ぐ確率が高まると、『日経ベンチャー 2008年5月号』(日経BP社)に解説されています。

 3つの典型的パターンとは、「自信過剰」「委縮」「思考停止」です。今回はパターン別に、そこに陥る心理と防衛策をご紹介します。


 1.自信過剰に陥る心理

 【1】埋没費用効果…ここまで費用をつぎ込んだんだから止められない!

判断ミス例 ⇒先の見えない新規事業に無駄な追加投資
考えられる原因 ⇒事業の価値」でなく、「注ぎ込んだ費用」に目を奪われ、事業の価値を過大評価した
※「埋没費用効果」に惑わされないための対策
  • 継続・撤退を判断するときは、その事業に注ぎ込んだコスト、労力はいったん忘れる
  • 事業の評価は「過去の苦労」でなく「将来に向けての費用対効果」で考える

 【2】資産効果…今なら成功しそうな気がする!

判断ミス例 ⇒好況時の分不相応な大型投資
考えられる原因 ⇒資産の含み益が増え気が大きくなった
※「資産効果」に踊らされないための対策
  • 追加投資等を決断する際は、含み益などを未確定・未回収利益は考慮しない
  • 資産が急増した直後は、重大な決断を控える

 【3】データ過信…データの裏付けがあるから大丈夫だ!

判断ミス例 ⇒綿密なデータに基づいたはずの経営戦略が破綻した
考えられる原因 ⇒データの作成や解釈の方法が恣意的
※「データ過信」のわなに落ちないための対策
  • 完璧なデータはこの世に存在しないと心得る
  • 都合のいいデータだけを信じている可能性をチェックする

 

2.萎縮する心理

 【1】アンカリング(係留効果)…最初の提示価格の半分になった。交渉は成功だ!

判断ミス例 ⇒価格交渉で他社より不利(割高)な契約を結んでしまった
考えられる原因 ⇒最初に相手が提示した値段(言い値)を基準に交渉した
※「アンカリング」に騙されないための対策
  • 未知の相手との価格交渉では、相手が自分を「アンカリング」のわなにはめようとしてないか確認する
  • 発展途上国などでは、相手が最初、2倍以上の価格を提示してくると心得る

 【2】曖昧性回避…知らないことはリスクが高いから手を出さない!

判断ミス例 ⇒「地の利」があるはずの新規事業に進出したが業績不振
考えられる原因 ⇒「地の利」「経験」だけを最大の根拠にして決断した
※「曖昧性回避」に陥らないための対策
  • 「地の利」「経験」を最大根拠にした決断をやめる
  • リスクとリターンは裏腹であり、リスクを取らずに高いリターンは望めないという経済原則を再確認する

 【3】群集効果…周りと同じ戦略を取っていれば大きなミスはない!

判断ミス例 ⇒「地の利」「経験」だけを最大の根拠にして決断した
考えられる原因 ⇒周囲の意見に流され必要以上に消極的決断をした
※「曖昧性回避」に陥らないための対策
  • メディアの論調で極端なものはうのみにせず、自分自身の判断力を発揮させる
  • 業界内での評価や世間体でなく、「自社の存続」を最も重視して決断を下す

 

3.思考停止する心理

 【1】現状維持バイアス…とりあえずしばらく様子を見よう!

判断ミス例 ⇒決断を先送りした結果、新商品開発で他社に後れをとった
考えられる原因 ⇒リスクを恐れ現状に甘んじた結果、本来すべき決断を放棄してしまった
※「現状維持バイアス」で凍りつかないための対策
  • 決断を先延ばしにするときは、現状維持バイアスに陥ってないか確認する
  • 外部の意見を採り入れるなど、決断プロセスの固定化を防ぐ

 【2】プロスペクト理論の反転効果…厳しいからこそ一発逆転を狙って勝負だ!

判断ミス例 ⇒厳しい局面で起死回生を狙い事業がさらに悪化
考えられる原因 ⇒損失を一気に挽回しようと必要以上にリスクの高い決断をした
※「反転効果」に誘惑されないための対策
  • 決断を先延ばしにするときは、現状維持バイアスに陥ってないか確認する
  • 外部の意見を採り入れるなど、決断プロセスの固定化を防ぐ

 【3】所有効果…やっぱり売らずに保有しておこう!

判断ミス例 ⇒収益を生まない資産を売り渋り経営難に
考えられる原因 ⇒長年の所有で必要以上の愛着がわいた
※「所有効果」に縛られないための対策
  • 資産の売却・保有継続を考える際は、所有者ではなく、第三者の立場で「保有し続ける費用対効果」を考える
  • 原則として、余分な資産を保有せず資産効率を高める「持たざる経営」が 企業を長期的に存続させるビジネスモデルであることを意識する