オーナー経営の死角

 一貫した経営理念の下、「即断即決実行」の実現を可能にするのがオーナー経営の最大の強みです。但し、一歩間違えば「唯我独尊」「独裁」の危機に陥りやすいのもオーナー経営の特徴です。
 今回は『日経ベンチャー 2005年7月号 日経BP社』から、「倒産」「破綻」の具体事例を入口にオーナー経営ならではの長所を磨き、短所を遠ざける経営について考察します。


1.オーナー経営崩壊の構図

メリットの多いオーナー経営ですが、一つ間違うとデメリットが色濃く表われてしまうのもオーナー経営の特徴です。 では、何が原因で破滅への一歩を踏み出すのか?それは「リーダーがワンマンになった時」とオーナー企業の研究家である甲南大学の倉科教授は語っています。ワンマンとなり、破滅に向かうオーナー経営者の陥りがちな五つの傾向を次に紹介します。

2.オーナー経営が陥る五つの傾向

 [1] 拡大バカ

企業に永遠の成長はない 「見切り」の能力こそが問われる

■ 特徴
  • 積極果敢な投資や多角化に突き進み、「過剰投資」で失敗
■ 典型例
  • 好調期に銀行からの借入を元手に新工場や本社を建設。その直後、需要一巡やブーム終焉で売上が低迷。借金返済に追われ、資金繰りに窮して倒産。

    • アクセサリー製造の「ラッキーコーポレーション」は、物流センター建設後100円ショップブーム到来で窮地に。民事再生法で再建中。
    • 柔らかクッションで一世を風靡した「エビス化成」は、ブームの過信で無謀な海外展開による過剰在庫を抱えて自己破産。
    • 「人形の秀月」は飲食店や飲食店やパチンコ店など本業に関係のない多角化で借金の山を築いた。
■ 名経営者の判断
  • 「見切り」の能力が問われるのが名オーナー。今ヒットしている分野でも、将来性がなければ撤退の判断を下せるのは、オーナー経営者が強い権限を持つからこそ。

 [2] 成功ボケ

「リーダー」と「ワンマン」の分水嶺 会社を伸ばすのはリーダーの才覚

■ 特徴
  • 従来の「成功体験」に盲執し、周囲の声を聞かない「裸の王様」となり、最後は経営のバランスを崩してしまい、破綻の道へ。経営者が『リーダー』から『ワンマン』に変貌して招く悲劇。
■ 典型例
  • 経営破綻し、民事再生申請の自転車製造業「出来鉄工所」は、同業他社が次々中国に進出する中、部品メーカーとの共存共栄を理由にそれを拒否。周囲の勧めにも耳を貸さず頑なに国産にこだわったため、最悪の結果を招いた。
■ 名経営者の判断
  • 「リーダー」と「ワンマン」の違いを認識すること。「リーダー」社長は、様々な考えの社員達をまとめてリードする。

 [3] 承継失敗

「経営者の資質」こそが問われる 譲る前に、社長道を身を持って示す

■ 特徴
  • 自分が必死に築いてきた会社を愛する子供に継がせたいのは人情。但し、創業者と二代目では、経営を巡る環境が違う。また、経営に対する意気込み、考えにも差があり、経営者としての資質が備わっているかどうか疑問。
■ 典型例
  • 自己破産した「内田食品」は老舗佃煮メーカーとして知られるが、三代目の「いい人」さが、結果的に経営破綻を招いた。三代目はリーダーシップを欠き、重要局面でも先代からの番頭さんに頼るのみ。経営者としての資質が明らかに欠如していた。
■ 名経営者の判断
  • 後継者が人間的に魅力的でも経営者として成熟出来なければいけない。経営を譲る前に、社長道を身をもって示すこと。

 [4] 財務音痴

事業拡大と財務は背中合わせ リスクを想像できない社長は失格

■ 特徴
  • オーナー社長が財務部門出身者であることは稀。事業規模が小さいうちは把握できても、業容拡大により理解の限界を超えるときが来る。その結果リスクをイメージ出来なくなって、セールストークに乗せられて目先の損得勘定で不動産投資などしてしまう。
■ 典型例
  • 自己破産した「カギの救急車」は、業界でカリスマ経営者として知られていたが、新規FC店増加を目的に加盟店の借入をカギの救急車本部が債務保証する制度を導入。しかしFC店の破綻や経営不振が相次ぎ、連帯保証で多額の借金を肩代わりして破綻。
■ 名経営者の判断
  • 売上と利益しか見ていない経営者は危ない。資金繰表やキャッシュフロー計算書など、日々の資金の動きに対する目配りが重要。ホンダにおける’技術の本田宗一郎’と’経営の藤沢武夫’の二人三脚は有名。財務が苦手なら、得意なパートナーを捜す事が重要。

 [5] 足元不安

緩みは常に〝内〟から生まれる 中身のない企業に明日はない

■ 特徴
  • まさに灯台下暗し。オーナー経営者が社内への目配りを忘れ、外ばかりに目が向いていて社内体制が緩み、不祥事や内紛が発生して内側から崩れる。
■ 典型例
  • 民事再生適用の漬物製造卸の「卸の金久」は業績が低迷し、社内の危機感が高まった時期に幹部など10人以上のベテラン営業員が集団退職。社員への締め付けで社長との信頼関係が損なわれ、人心が離れていったのが原因。
  • 「オレンジチェーン本部」の転落は牛肉の偽装表示を告発された事がきっかけに。精肉売り場の担当者が売上を伸ばすため独断でラベルを貼り替えていた。「安全・安心」の経営理念が徹底していれば防げただろう。
■ 名経営者の判断
  • オーナー企業の強みの一つは、社長が生涯にわたってリーダーシップを発揮出来ること。社長が辛抱強く熱心に自社の経営理念を説いて回ることで、自然と経営理念が浸透する。それが長寿企業を生む力になる。