超・訴訟社会 ~ そんなんじゃ、会社もあなたも訴えられる

 経営陣が犯した経営判断の誤りや、社員の不正行為が厳しく糾弾される事例が後を絶ちません。相次ぐ企業の不正行為により、社会全体がコンプライアンスに敏感になっているという背景もあります。  「わが社は法令を守っているから大丈夫」と安心していないか?「法令に反していない」と断言できるか?総点検が必要な時期であると言えそうです。今回は、『週刊 東洋経済2008.6.14号』(東洋経済社)’超・訴訟社会~そんなんじゃ、会社もあなたも訴えられる’より、企業が抱えるリスクの種類とその実態をご紹介します。


1.会社が抱えるこれだけのリスク…
    各ステークホルダーとの間に起こり得るトラブル

(1) 株主 - 株主代表訴訟(会社に損害を与えた役員の責任を追及)
敵対的買収(買収防衛策をめぐる訴訟リスクも)
(2) - 談合・贈収賄(公共発注や許認可、立法などをめぐる不正)
(3) 地域社会 - 環境問題(アスベストなどの環境汚染、リサイクル法違反など)
(4) NGO,NPO - 抗議活動・不買運動(児童労働などの人権問題や環境問題で企業を追求)
(5) 消費者,取引先 - 偽装(食品などの表示偽装、データ改ざんなど)
安全(食中毒、製品事故、公共物の欠陥・整備不良など)
(6) 報道機関 - メディア対応(メディア対応の誤りによる社会的批判の拡大)
(7) コンピュータネットワーク - サイバー犯罪(不正アクセス、サイト攻撃、情報流集など。情報流出は従業員の不注意でも発生)
(8) 従業員 - 雇用(偽装請負、違法派遣、名ばかり管理職、男女差別、セクハラなど)
インサイダー取引(会社の情報管理体制が問われ、社会的信用も失墜)
(9) 反社会勢力 - 不適切な関係(資金提供や不正取引などの不正要求)
(10) 会社・経営者 - 粉飾・不正会計(経営者が主導する不正行為)

 

 2.過去の事例から会社のリスクを徹底分析

 (1) 食品偽装

【事例】 JR東海パッセンジャーズ・日本マクドナルド・比内鶏・船場吉兆・赤福・石屋製菓・ミートホープ・不二家・伊藤ハム・ハンナン
【傾向分析】 近年の食品の安全に対する関心の高さを反映 し、求刑以上に多額の罰金が科されたり、執行猶予なしの実刑判決が下されるなど、司法判断も厳罰化の流れ。食品偽装では、内部告発により発覚するケースが 多発しているが、通報を受けた監督官庁が適切に対応せず、被害を広げた例も多い。農林水産省の「食品表示110番」への情報提供も増加傾向で、告発への抵 抗は薄れている。

 

 (2) データ改ざん

【事例】 再生紙偽装問題・建材会社の防耐火認定偽装など
【傾向分析】 2005年の耐震強度の偽装問題以降、データ改ざんの不祥事は後を絶たない。社会からの関心は極めて高い。特徴的なのは、製紙業界や建材業界のように、ひとつの会社で発覚した不祥事が業界全体に波及し、業界自体の信頼性を問われる問題につながっていることだ。

 

 (3) 製品事故

【事例】 松下電器産業・INAX,TOTO・リンナイ・ソニー・パロマ工業・三菱自動車
【傾向分析】 近年、ソニー、松下、三菱自動車といった、日 本を代表する企業の不祥事が目立っている。また、三菱自動車の件では自動車の欠陥が死亡事故に繋がったが、被告人である元社長らが予測不可能であったこと を理由に無罪を主張したのに対して、結果的に横浜地裁は業務上過失致死罪の成立を認めている。昨年には、パロマの元社長らも同様に業務上過失致死罪で在宅 起訴されており、今後は経営者が会社の不祥事について、重い刑事責任まで問われるリスクが増大する可能性もある。

 

 (4) 公共の安全

【事例】 ユニマットグループ・エキスポランド・シンドラーエレベータ・日本航空、全日本空輸・JR西日本・東武鉄道・関西電力・森ビル、三和タジマ
【傾向分析】 多くの犠牲者を出しながらも、法人や経営者の 責任が問われていない事件がある一方で、綿密な調査によって、従来では見られなかったような厳しい処分が科せられたケースも目立つ。被害者が補償や賠償を 求めるだけではなく、社会全体にも原因究明や責任の所在を明らかにしようという風潮もあり、企業にとってはこうした事故によるコストは計り知れないものに なる。

 

 (5) 敵対的買収

【事例】 ブルドックソース・明星食品・北越製紙・阪神電気鉄道・TBS・ニッポン放送
【傾向分析】 敵対的買収の対象となっているのは、主とし て、保有する資産価値や利益水準に比べて株価が低い企業や、換金可能性の高い資産を多く保有している企業である。外資系ファンド等、買収対象となった企業 にとって好ましくない株主の参入に対し、まず見られるが、これは当該企業の株主還元方針が不十分であることの表れといえるかもしれない。

 

 (6) インサイダー取引

【事例】 野村証券・新日本監査法人・NHK・プロネクサス、宝印刷・コマツ・村上ファンド・日本経済新聞社・コクド・メディアリンクス
【傾向分析】 昨年から今年にかけ、メディア、監査法人、証券会社など市場関係者を中心に摘発が相次いでいる。証券市場が大きく変化する中で、インサイダー事件を他人事と思わずに、明日はわが身と日頃から発生の予防のために備える必要がある。

 

 (7) 環境問題

【事例】 日本製紙、王子製紙、大王製紙、他・ヤマダ電機、コジマ、他・東京電力・ニチアス、クボタ、他・JFEスチール・三菱地所、三菱マテリアル
【傾向分析】 企業の環境への取り組みは、CSR(企業の社 会的責任)の普及とともに注目を集めているが、環境汚染や廃棄物処理などの問題は一向に減少していない。むしろ、業界全体の隠蔽体質により公表が遅れ、人 命にかかわる事故が多発するなど、社会に対する影響は、深刻なものも出てきている。一部の業界では、このような環境に対する隠蔽体質を業界全体で改善し、 企業が積極的に社会と共存していくことが求められている。

 

 (8) 談合

【事例】 大林組、清水建設、鹿島、奥村組、前田建設工業・ヤマト設計・緑資源機構・ハザマ、他・佐藤工業、東急建設・橋梁メーカー47社
【傾向分析】 談合は、公共工事に依存する建設業界の体質が 根底にある。入札談合に対する法的措置の件数は、過去5年間では04年をピークにいったんは減少したものの、昨年度は増加に転じている。企業に課される1 社当たりの課徴金も05年度以降増加しており、厳罰化が図られている様子がうかがえる。一方で、独占禁止法改正により導入された課徴金減免制度を年に数十 社が活用するなど、改善に向けた動きも見られる。

 

 (9) 粉飾・不正会計

【事例】 ニイウス コー・加卜吉・三洋電機・アイ・エックス・アイ・日興コーディアルグループ・ミサワホーム九州・ライブドア・カネボウ・ナナボシ
【傾向分析】 急成長が期待されるIT系企業において、経営 者主導の架空取引の計上といった粉飾が増加している。また、従来、単独の会社で行われていた粉飾が、複数会社間の取引を偽装するなど、手口が複雑化する傾 向にある。とりわけ経営者の主導による粉飾は、企業の存在自体に大きな影響を与えており、経営者は当然ながら、チェック機能を期待される外部監査人なども 責任を問われるケースが生じてきている。

 

 (10) 雇用

【事例】 日本マクドナルド・兼松・コナカ、青山商事・NOVA・グッドウィル・グループ・フルキャスト・北米トヨタ自動車
【傾向分析】 グッドウィルで発覚した違法派遣の問題は、正 規社員と非正規社員との格差の拡大、いわゆるワーキングプアの問題等、社会問題にまで発展した。今年に入ってからも、マクドナルドの店長が、店長は管理職 に当たらないとして未払い残業代を会社に請求した訴訟で、店長側の主張が認められるなど、会社よりも被雇用者側をより保護する風潮が続いている。雇用問題 は会社の風評に直結しやすい問題でもあり、今後、いかにして良好な労使関係を築くかが、会社にとって重要な課題となる。

 

 (11) 反社会的勢力との関係

【事例】 スルガコーポレーション・興産信用金庫・丸石自動車・西武鉄道
【傾向分析】 反社会的勢力との関係は、引き続き問題となっ ている。会社にとって反社会的勢力との関係が指摘された場合、たとえ事前に知らなかったとしても、企業に与える風評リスクは極めて大きく、事実関係の有無 にかかわらず経営者責任を問われるケースも出ている。証券市場も反社会的勢力の徹底排除に向けた取り組みに、一層力を入れている。